コラム
2025年6月18日
MVNOユーザーの「詳しくない」は真実か? 価格と不安に隠れた選択の理由【2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~ Vol.2】
2025年4月17日に「2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~」内にて、MNOユーザー3人とMVNOユーザー2人の方にリアルタイムでインタビューを実施いたしました。今回はMVNOユーザーにインタビューした内容を、実際に担当した弊社モデレーターからインタビューへの意識や工夫点、仮説検証などを聞き、まとめています。
インタビューを考えている方はもちろん、通信サービスについても分析していますので、通信事業者の方にも参考になる内容です。ぜひご覧ください。
2025年通信市場の実態~データとユーザーの生の声から紐解く消費者動向~
- Vol.1:【MNOユーザー】ユーザーの経済圏利用にはギャップが! 意外な視点と深層発見
- Vol.2:【MVNOユーザー】MVNOユーザーの「詳しくない」は真実か? 価格と不安に隠れた選択の理由
目次
■ インタビュー全体の印象
■ 回答の引き出し方・インタビュー時の工夫
■ 発言の背景や意図の読み取り
■ 仮説から実際のインタビューで得られた気づき
■ ユーザーに対しての注意点
■ インタビュー調査を考えている方へ
<座談会ユーザー情報>
①30代男性
- 通信会社:日本通信
- ひとつ前の通信会社:LINEMO
②50代男性
- 通信会社:mineo
- ひとつ前の通信会社:au
インタビュー全体の印象
今回は2人の方にご参加いただいたと思いますが、インタビューを通して全体としてどのような印象を持たれましたか?
2人とも非常に落ち着いてお話しいただけたという印象があります。
最初は2人という少人数だったので、十分に意見が出てくるかどうか少し不安もありましたが、実際には2人とも丁寧に、詳細な内容まで話してくださったので安心しました。
特に印象的だったのは、1人は「日本通信」と明確なMVNOブランドを意識して選んでおられた一方で、もう1人はまた違った視点で利用されていて、それぞれ異なる意見が聞けたのが非常に良かったと思っています。
インタビューを通して「新しい発見」や「意外な視点」があったと感じた点はありましたか?
インタビューの前にアイスブレイクを兼ねて、「通信には詳しいですか?」と軽く聞いてみたのですが、2人とも「あまり詳しくないです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
私自身は、MVNOを利用している人というのは、ある程度リテラシーが高くて、通信に詳しいのではないかと先入観があったんです。でも、実際にはそうではなかったんですね。それがまず意外でした。
実際に話を伺ってみると、たしかにMVNO全体を深く調べたというよりは、「テレビCMでキャンペーンを見た」「Xで見かけた」といったきっかけで契約されており、あまり情報収集に時間をかけたわけではない様子でした。
そのため、「自分は詳しくない」と自己評価していたのも納得で、「通信に詳しい=MVNOユーザー」という前提は、思い込みだったかもしれないと感じました。
インタビューの中で、特に「これは興味深かった」と感じた内容があれば教えてください。
印象的だったのは、MNOの料金に対するイメージです。2人とも、「MNOの月額料金は7,000〜8,000円くらい」と印象を持っていて、それが高い認識につながっていました。その理由として、過去に自身がMNOを利用していたときの料金がそれくらいだったことや、現在も家族がそのくらいの金額で契約している実体験が影響しているようでした。
MVNOを利用している2人からすると、「MNO=高い」イメージがまだまだ根強く残っている点は非常に興味深かったです。実際にはMNOでもオンライン専用プランやキャリアサブブランドといった、比較的安価な選択肢もあるのですが、そういった情報はあまり知られていない、あるいは意識されていないのかもしれません。
「MNO=料金が高い」イメージが強く定着してしまっていることが、利用選択に影響している可能性があると感じました。
2人の方に共通して語られていた点と、逆に個人差が目立った点があれば教えてください。
共通していた点としては、まず「MNOは料金が高いよね」と認識を2人とも持っていたことです。また、どちらも「キャンペーンをきっかけにMVNOを契約した」点も共通していました。
一方で、個人差が見られたのは利用歴やサービスへの姿勢です。1人はすでに10年近くMVNOを利用しており、今後も特に他社に乗り換えるつもりはないとおっしゃっていました。50代の男性の方で、その年代でMVNOを10年も継続しているのは、やや珍しいケースかもしれません。
ただ、その方も実際には、契約している通信サービスが提供しているユーザー同士のコミュニティ機能のようなものは「存在は知っているけれど、使ったことはない」「特に興味もない」といったスタンスでした。つまり、特別な愛着があって使い続けているというよりも、契約当初のキャンペーンが魅力的だったことと、その後に特に不便を感じなかったため、結果として乗り換えずに続けているのかなという印象を受けました。
そのため、他社の情報なども積極的には取りにいっていない様子で、「今のままで困っていないから、変える必要も感じていない」状態だと思います。こういったユーザー像は、継続利用の要因を探る上で非常に興味深い特徴だと感じました。
回答の引き出し方・インタビュー時の工夫
インタビュー時の工夫として、たとえば質問に対して、ユーザーが理解しにくそうだなと感じた場面はありましたか?
ありました。特に追加の質問で、周波帯に関するような専門的な話題が出たときですね。たとえば「『対応バンド』という用語について知っていますか?」という追加質問をセミナー参加者からいただいたのですが、一般の方にはあまり馴染みがない言葉だと思いました。
そのため、こちらとしても質問の仕方に工夫が必要でした。今回は、私ではなく社内のサポートスタッフが補足説明を入れてくれて、「対応バンドとはこういうもので、これを基準に端末を選ぶ人もいますが、ご存じでしたか?」と前提を丁寧に伝えながら質問してもらいました。
こうした専門用語が含まれる場面では、言葉をかみ砕いて伝える、背景を説明した上で質問する、といった工夫がやはり重要だと感じました。
今回のインタビューで、具体的に話を深掘るために意識していた聞き方があれば教えてください。
MVNOを利用している方は年齢層がやや高めだったこともあって、どうしてMNOからMVNOに乗り換えたのか、その理由に注目して聞くようにしました。もちろん「安さ」が理由なのはあると思いますが、中には長期間使い続けている方もいらっしゃったので、「なぜ他社に乗り換えないのか」「今のサービスに何を感じているのか」といった点を意識的に深掘りしました。
たとえば、過去にMNOを利用していたときの印象や、それとMVNOを比較してどう感じているのかなど、MNO時代の話が出てきたときには、その流れを活かして会話を展開するようにしています。
今回のインタビューの中で、「インサイトが得られた」と感じた瞬間はありましたか?
2人の話を聞いている中で、ある種の共通した傾向は見えてきました。
2人とも「MVNOを利用しているけれど通信に詳しいわけではない」と話していて、「今のサービスに満足しているから、特に他を調べるつもりもない」といった姿勢が共通していました。通信会社に対する愛着が強いというより、「特に不満がないから変えようとも思わない」という受け身のスタンスのように感じました。
MNOでもっと安いプランがあるかどうかはあまり気にしていないようでしたし、「通信が不安定になることもある」とは言いつつも、それを大きな問題として捉えているわけではないようでした。そうした様子から、「MVNOユーザー=通信感度が高い」という一般的なイメージとは少し違い、むしろ“そこまで強い関心を持っていない”ユーザーも多いのではないか、という点が今回のインタビューで得られた大きな気づきだったと思います。
発言の背景や意図の読み取り
断片的な発言の中に「これ、背景に何か重要な要素が隠れていそうだな」と感じた会話はありましたか?
ありました。以前は楽天のサービスを利用していて「経済圏」のメリットも活用していたそうなのですが、「還元率が悪くなったので、今はもう抜けました」と話されていたんです。そして現在は「経済圏は特に意識していない」とも話していました。こうした発言からは、「通信キャリアを経済圏の一部として重視しているわけではない」というスタンスが見えてきたように思います。
つまり、かつてはポイント目的で経済圏を活用していたものの、今はそこに重きを置いておらず、通信契約やサービス選択とは切り離して考えているような印象を受けました。一見すると、「MVNOを選ぶ人=ポイントや経済圏に敏感な人」と、前提と矛盾しているようにも思えますが、この方にとっては“安さ”が主な選択理由であり、ポイントなどは優先順位が低いのかもしれません。こうしたスタンスの違いは、非常に興味深いと感じました。
そういった背景的な意図には、どのようにして気づくことが多いですか?
たとえば「経済圏についてどう思いますか?」と質問した際に、「あまり意識していないです」や「興味はないですね」といった反応が返ってくることがあります。そうした一見シンプルな答えに対して、私はもう一歩踏み込んで聞くようにしています。
「なぜ意識していないと感じるんですか?」「なぜ興味がないんですか?」といったふうに尋ねたり、仮に楽天経済圏の話題であれば、「以前使っていたとのことですが、どうしてやめたんですか?」と質問したりと重ねます。すると、「還元率が悪くなったから」「なんとなく使わなくなった」といった具体的な理由が出てくることがあるんですね。そういった発言から、「この人は通信サービスや経済圏をあまり紐づけて考えていないんだな」とか、「主な判断基準はポイントではないのかもしれない」といった背景が浮かび上がってきます。
こうした発言のニュアンスを丁寧に拾いながら、文脈や流れから意図を考察していく流れで読み取ることが多いです。
今回に限らず、「これは深掘りできそうだな」と気づいた場面があった場合、どのような工夫をされていますか?
一見すると、「興味ないです」とか「わかりません」といった回答が返ってくると、「これ以上聞いてもあまり意味がないかも」と感じて、ついそのまま流してしまいがちなんです。でも、そういうときこそ、もう一歩踏み込むことが大切だと思っています。
たとえば、「なぜ興味がないと感じるんですか?」「わからないと感じるのはどういう点ですか?」といった問いかけをすることで、意外とその人なりの考えや理由が出てくることがあります。
そういう“はっきりしない”回答も、こちらの聞き方次第では大きなヒントになることがあるので、「わかりません」「興味ありません」といった発言も決してスルーせず、丁寧に拾っていくようにしています。
特定の言葉の使い方や表現で印象に残ったものがあれば教えてください。
特に印象に残ったのは、2人とも「自分はあまり詳しくないです」とおっしゃっていたことです。
この「詳しくないです」という表現は、実は人によって背景が異なる場合があるなと感じました。単に謙遜して言っているだけの可能性もありますし、本当に関心がなくて調べることもしないケースもあると思います。
たとえば、日本通信を利用していると聞くと、「この人は通信に詳しいのでは?」と無意識にバイアスをかけてしまいがちですが、実際には「たまたまキャンペーンを見て契約しただけで、他は特に見ていない」というような方もいるわけです。
そういった“情報に敏感ではない層”を企業側がうまく捉えられれば、かなり強い訴求になるのではないかと感じました。逆に、通信に詳しい人ほど他社と比較して乗り換えやすい側面もあるため、継続利用に結びつきにくい可能性もあります。
その意味では、あまり詳しくないけれど満足して使い続けているようなライトユーザー層こそ、今後MVNOの中で増えていくのではないかと思い、非常に印象に残る表現でした。
仮説から実際のインタビューで得られた気づき
通信に対する意識やニーズについて、もともと仮説があったと思いますが、その内容を教えていただけますか?
もともと持っていた仮説としては、「MNOを使っていた人は、いきなりMVNOには移行しないのではないか」というものがありました。
具体的には、まずキャリアサブブランドやオンライン専用プランのような、“中間的なステップ”を経て、そこからさらに安価なMVNOに乗り換えていく、という段階的な移行があるのではないかと想定していました。つまり、「MNO → オンライン専用プラン or キャリアサブブランド → MVNO」という流れですね。いきなりMNOからMVNOにジャンプするのはハードルが高いのではないかと考えていました。
また、それに加えて「MVNOユーザーは、とにかく“安さ”を重視しているのではないか」と仮説もありました。価格に敏感で、よりお得な選択肢を追い求める層が多いのではないかという視点です。
もともとの仮説に対して、実際のインタビュー結果を踏まえて「これは仮説通りだったな」「これは違っていたな」と感じた点を、それぞれ教えてください。
まず、「これは違っていたな」と感じた点についてです。
MNOからMVNOに乗り換えた方がいらっしゃったのですが、その方はMNOから直接MVNOに乗り換えていました。私たちの仮説では、MNOからキャリアサブブランドやオンライン専用プランを経て、徐々にMVNOへ移行する段階的な流れを想定していたため、このケースは想定外でした。
ただし、この方は10年ほど前に乗り換えた背景があり、その当時は現在のようなオンライン専用プランやキャリアサブブランドがまだ存在していなかった、あるいは認知度が低かった時期だった可能性もあります。つまり、「段階を踏まずにMVNOへ移行した」というより、「そもそも他の選択肢がなかった」ということかもしれません。
一方で、「これは仮説通りだったな」と思った点もありました。
もう1人の方は、現在LINEMOを利用していて、そこから日本通信に乗り換えた流れでした。これはまさに、MNOからMVNOへと段階的に移行したパターンであり、当初想定していた仮説に一致する事例だったと思います。
今後インタビュー調査を検討している方にとって、どのあたりが価値のある内容になりそうか教えてください。
まず、「事前の仮説を立てること」は非常に重要だと改めて感じました。ただし、その仮説自体にバイアスが含まれていることも多いため、注意が必要だと思います。
たとえば、「MVNOを使っている人は通信に詳しいはず」とか、「MVNOユーザーはとにかく安さを究極に追い求めている」という仮説は一般的によくあるものですが、実際に話を聞いてみると、必ずしもそうではないケースも多く見られました。
中には、特別に詳しいわけでもなく、なんとなくキャンペーンがきっかけで乗り換えた人もいますし、今はMNOやそのキャリアサブブランドを使っている人たちでも、もっと気軽にMVNOへ乗り換えていくような流れがあるのかもしれない、という発見もありました。
こうした実際の声から、仮説が「いい意味で裏切られる」ことも多々あり、そこにインタビュー調査の大きな価値があると感じます。
つまり、仮説が当たっているかどうかを検証するだけでなく、企業側や調査者側が無意識に持っているバイアスに気づき、それを修正するきっかけとしても、インタビューは非常に有効です。
ユーザーに対しての注意点
今回インタビューに参加された2人に対して、特に配慮した点があれば教えてください。
特に配慮したのは“リラックスした雰囲気づくり”です。
やはり初対面同士で、しかもオンラインでお話しいただく状況だったため、いきなり本題に入るのではなく、最初にアイスブレイクとして軽く雑談を交えるようにしました。そうすることで、できるだけ緊張感を和らげていただくよう意識しました。
また、2人に交互に話していただく際にも、無理に話を振るのではなく、1人の方が話し終えた後に「〇〇さんはどうですか?」と自然な形で話をつなぐようにしました。そうすると、「さっきと同じ意見ですね」とか「自分は少し違っていて…」といったように、自発的に対比しながら話してくださることが多くなります。
こうした流れをつくることで、話の内容だけでなく、「どこが共通していて、どこが異なるのか」という点も、聞き手として把握しやすくなりましたし、インタビューとしての深みも増したように感じました。
インタビュー調査を考えている方へ
これからインタビュー調査を考えている方に向けて、伝えておきたいことがあればお願いします。
一番大切なのは、「仮説を立ててからインタビューを行うこと」だと思います。
仮説といっても、必ずしも高度で複雑なものである必要はなく、むしろ当たり前と思われるようなシンプルなものでも構いません。たとえば、「MNOユーザーは価格をあまり気にしていないのでは?」とか、「MVNOユーザーはとにかく安さを重視している一方で、通信品質に対する不安があるのでは?」といったものでも十分です。
実際にインタビューを行ってみると、「思ったほど通信品質を気にしていない」「実は価格にはそれほど敏感ではない」といった、仮説を裏切るような発見が得られることがあります。そうした“ズレ”に気づけることこそ、インタビューの醍醐味だと思います。
また、対象者の属性が異なる複数の人に話を聞くことで、さらに幅広い視点や気づきを得ることができます。そうした多様な意見を集めることで、自社の仮説の妥当性をより多角的に検証することができると思います。インタビューを通じて発見を深めていくことを意識してもらえると、とても良い調査になるのではないかと思います。
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※インタビュー調査自体についてはもちろん、今回のセミナーのインタビュー内容についてでも構いません
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MMD研究所(編集部員)